科学の散歩道
現代物理学入門

素粒子物理学編
湯川秀樹の中間子理論

今回は、原子核構造の謎を解く「中間子理論」の話をしよう。

原子核は、陽子と中性子から構成されている。 一般に、原子核を構成する粒子のことを「核子」と呼ぶ。 陽子と中性子は、ともに核子である。

原子核の大きさは非常に小さい。 どの程度小さいかをメートルを単位にして簡単に評価すると、原子の大きさは、0.0000…と小数点のあとにずっと0が続き、10桁目になってようやく0でない有効数字が現れる。 しかも、原子核はもっと小さく、有効数字は15桁目になって初めて現れる。 原子も小さいが、原子核は、それより5桁分ほど小さい。 すなわち、原子核は、原子の大きさの10万分の1の大きさだと言える。

ミクロな世界は、量子力学によって記述される。 量子力学は、人間の日常的な感覚から大きく離れた理論だが、しかし実際に計算してみると、実験結果に見事に一致する精密な情報を与えてくれる。

量子力学の本質は、不確定性原理の中に含まれている。 不確定性原理とは、2つの物理量を測定したとき、同時に両者の観測値が確定できないことをいう。 例えば、位置と運動量は不確定性関係を満たす2つの物理量であって、正確に位置を測定しようとすると、そのときの運動量は確定しない。 反対に、正確に運動量を測定しようとすると、今度は位置が確定しない。

時間とエネルギーも不確定性関係を満たす2つの物理量だから、両者を同時に確定させることはできない。 ある一定の時間差を許すと、エネルギーの保存法則を破ることができる。 つまり、時間Δtの間にエネルギーΔEが発生し、かつ消滅することが許されるわけだ。

この考え方を使うと、核子の場合、常にそのまわりにΔEのエネルギーを発生させたり、消滅させたりしていると考えることができる。 アインシュタインの相対性理論によれば、質量とエネルギーは等価だから、ΔEのエネルギーの発生は、新しい質量(すなわち粒子)の発生だと考えてよい。 質量のある粒子は、光の速さcを超えて運動することができないので、Δtの間に移動できる範囲は、高々c×Δtにとどまるであろう。

c×Δtは長さの次元だから、これに原子核の大きさを当てはめてやると、計算を逆にたどって、ΔEの大きさにおよその見当がつく。 ΔEの大きさを質量で評価すると、核子1個分よりは軽く、電子よりは重いということが分かった。 湯川秀樹は、この未知の粒子に「中間子」という名前を与えた。 もちろん、質量による粒子の分類で、核子と電子の間に位置するからだ。

原子核の内部では、核子が互いに「中間子」を交換し合い、結合状態を保っている。 「中間子」によって核子の間に働く力のことを「核力」という。 湯川秀樹の中間子理論は1935年に完成したが、1947年にパイ中間子が発見され、その正当性が証明されたのである。


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